第三紀411年 収穫の月13日
ウェイレスト(ハイロック)
親愛なるコニンジへ
まずはこの手紙の字が汚いことを許してほしい。だが私に残された時間は少ない。手紙の一部分にしか詳しく返事を書くことができない。お前が耳にしたことを覆す形になるが、バリアシルは残念ながら本当に実在する。もしそれが管理人の作り話だとしたら、これを書きながら命が徐々に削られていくのを感じたりはしていないだろう。
ムーリング夫人が治癒師を呼んでくれたが、間に合わないことは分かっている。お前に理解してもらえるよう何が起こったか説明すれば、私がこの世界でやらなければならないことは終わりだ。この状態における唯一の長所は、いつものようにその土地や人々の詳細な説明をせずに、簡潔に済ませなければならないということだろう。
少なくともこのことに感謝してくれるはずだ。
話は私がウェイレストに来て、友人のムーリング夫人と彼女が宮廷に持っているツテを通じてバリアシル本人に紹介してもらったところから始まる。自分の召使であるハドワフ・ニスウィルからもらったアズラの星は今も彼が持っていると睨んでいたが、アズラの星に関する計画に気付かれたくなかったため、ことを慎重に進める必要があった。エリサナ女王の宮殿における彼の役割は、他にもたくさんいる宮廷人と同じく形式的な物のようだったが、神秘魔法について話し始めた時に他の者たちと差別化を図ることは難しくなかった。宮殿のごまあすり連中は魔法分野について雄弁に語ることはできても、技術に関する深い知識を持っているのは彼と私だけだったようだ。
魔術師を生業としていない多くの貴族や冒険家達は、役に立つ回復魔法や破壊魔法の呪文の中から1つ2つ選んで覚える。バリアシルには、自分はいずれも学んだことはないが(ああ、しかし今となっては回復魔法の治癒の呪文を知っていれば良かったと思う)、神秘魔法の能力は多少あるということを正直に話した。もちろんサイジック会とは比較にならないが、念動力、合言葉、呪文返しならば未熟ながらも能力があった。彼がそのことを褒めてくれたおかげで、スムーズに別の呪文、魂縛の話題に移ることができた。
そして無知ながらも呪文に興味があると伝えた。それから無理なく自然に、尽きることのない魂の源泉アズラの星を話題に上げることができた。
彼が身体をこちらに傾け、「興味があるなら明日の夜、町の西側にあるクライシック石塚に来るように」と囁かれた時、興奮を隠すのがそれだけ大変だったか想像してみてくれ。
全く寝付けなかったよ。彼が星を見せてくれた時にどうやって自分の物にするか、それしか考えられなかったんだ。過去や力のことを含め、バリアシルのことはまだほんの少ししか知らなかったが、ふいにするには惜しすぎる絶好のチャンスだった。それでも、お前が手紙でほのめかしてたように、来てくれるんじゃないかって期待をしていたことは否めない。この冒険では物理的な力で助けてくれる誰かがほしかった。
これを書きながらも徐々に弱っているため、基本的事実をさらに書き進めて行こう。次の晩、石塚に行くとバリアシルは星を保管していた場所まで迷路内を案内してくれた。お互い何気ない会話を交わしていたが、お前がよく言っていたように奇襲にはバッチリのタイミングのように思えた。私は星を掴み、自分でも信じられないスピードで刀を鞘から抜いた。
彼が振り向くと、私は突然カタツムリのような遅さで動いているかのように感じた。そして、たちまちバリアシルは姿を変え、本当の姿--人間でもエルフ族でもなく、デイドラに姿を変えた。私の手から星をかっさらった巨大なデイドラの主は、私の剣が彼の貫き通せない硬質な皮膚に当たり、ゴツンという音が立てると笑い声を上げた。
負けを認め、通路の方へと飛び出した。しかしその時、バリアシルの爪から放たれた青い光を帯びたエネルギーが身体中を駆け巡るのを感じた。そして即座に死を悟った。彼は何千とある呪文で私を打ち倒すことができただろうが、敢えて私が横たわり、苦しみ、彼の笑い声を聞くことのできる物を選んだ。だが、少なくともその楽しみを味わわせてはやらなかった。
既に攻撃された後では、マジカを打ち消す、もしくは反射させたり自分の物として吸収したりする神秘魔法の呪文返しを唱えるには遅すぎた。しかし、秘術用語で“リコール”という、スピリチュアルアンカーを最後に設置した場所へ瞬間移動する方法を知っていた。正直言うとどこにそれを設置したか覚えていなかった。イリアック湾に到着した時ボリアンに設置したかもしれないし、カンブリアか、もしくは管理人と会ったグリムトリーガーデンか、ウェイレストにある私の女主人の宮殿かもしれない。ただ距離があまりに離れていると次元の間に引っかかってしまうため、最後にアンカーを設置したのがお前と一緒にいたモロウウィンドでないことだけを祈った。それでもバリアシルの玩具になるくらいなら万が一に賭けてみようと思ったのだ。
呪文を唱えると、ムーリング夫人の宮殿の玄関前にある階段の上にいた。穴蔵から出られて、デイドラからも離れることができたのはホッとしたが、治癒師がいる魔術師ギルドや聖堂の付近にアンカーを設置するという頭があれば、と強く後悔した。もう遠くまでは歩けないと感じていたため、代わりにドアをドンドン叩き、今私が横になって手紙を書いているベッドへと運ばれた。
この手紙を書いていると敬愛しているエリザベッタ・ムーリング夫人が目に涙を浮かべながらかなり取り乱した様子のまま入ってきて、治癒師はクルが数分かかると言った。だが、彼らがクル頃にはシンデるだろう。コレがさいごのコトバになるのわかってる。ともよ、あののろわれたバショ、ちかづいてはダメだ。
おまえのとも
チャーウィッチ