マラキャスの掟:
傭兵によるオーク要塞ガイド


傭兵
アマンダ・アレイア 著




「オークに勝てる者はいない」


 私は何度このセリフを薄汚い酒場で聞いたか、興奮した傭兵が腹の底から叫んでいるのを聞いたか知れない。だがオーク要塞がその言葉を規範としていないと言ったら嘘になるだろう。この私、アマンダ・アレイアが、良い戦士を作り上げるのに“伝統”や“昔のやり方”が必要だと言う事はほとんどないが、オークに関しては先祖に忠実でいる事が勝利への近道のようだ。

 少し遡ったところから説明させてもらおう。オークによると、オーク要塞は自分達の種族の歴史と同じくらい長く存在しているのだそうだ。それは控えめに言うと武装したキャンプ、大げさにいうと要塞である。壁の内側にいるすべての者が生まれた時からそれを守るよう訓練されている。武器や鎧はすべて要塞内で製造され、食料はオーク戦士によって狩りで捕獲され、獲物を持ち帰ると要塞に住む皆で食べる。

 彼らに従うべき法律はなく、自分たちの中に刻み込んだ、文字には記されない“マラキャスの掟”と呼ばれるルールに従っている。これはモーロッチとも呼ばれる、彼らの神々の1人から名付けられている。ほとんどは、盗むな、殺すな、理由もなく人を襲うな(多くの例外があるようだが)というシンプルな内容だ。しかし、オークは要塞内に犯罪者を拘束する監獄を持たない。その代わりにあるのが、血の代償だ。犯した罪に見合った者を差し出すか、被害者が満足するまで血を流し続けるのだ。言うまでもないが、オークは血の気が多い。

 掟には誰が要塞を管理すべきかという内容も含まれている。通常は最も強い男が族長で、何かを決断したり、マラキャスの掟が守られているかを判断する。ここにいる女はすべて族長の妻か娘だが、例外として儀式や治癒を行うための賢女がいる。深刻な議論は、短くも激しい戦いで処理するが、族長とうまくやっていけない者の多くは要塞を追い出され、私たちと共に生活する事になる。オークはすべての事柄と戦うよう教えられて成長するが、戦うほどの価値がない物に関しては、この掟は適用されない。

 オーク要塞はよそ者が好きではなく、今も昔も自分たちだけで自活している。私、アマンダ・アレイアがなぜこんなに熟知しているかというと、要塞を去ったオークの大多数は傭兵や兵士になり、ハチミツ酒を数杯飲めば彼らも故郷の事を話し始めるからである。時折、オークがオークでない者を“親族”にすることがあり、そうするとその人間が一族として要塞内で暮らすのを許されるという話を耳にするが、実際に起こったという話は聞いた事がない。

 マラキャスの掟に定められている変わったルールや伝統は、覚悟を持った戦士を育て上げる。また、彼らは普通の戦士とは集中のしかたが違う。武器を抜くのを躊躇せず、隠し立てする事なく問題を解決しようとするが、これこそが要塞内にいるオークと街中にいるオークの真の違いだと思う。帝国法では皇帝に兵士たちを通じて戦いを解決するよう定めている一方、マラキャスの掟は自分の問題は自分で解決するように求めている。これは傭兵として生きるには、うってつけの考え方だと言えるだろう。