フローミルの詩(うた)
フロガーの血を継ぐフローミル
彼の者を宮廷へと呼び寄せたのは
エバースノーの地を統べる王にして
ヴィジンモアの血を継ぐヴィジンダックであった
「大いなる光の魔法の使い手よ
アエルフェンドールの地を往け!
闇の王たちが我が領地に影を落とす!
影の魔女が我が領民の光を奪う!」
王命を賜るフローミル
「この輝く氷の杖に誓い
必ずや成し遂げましょう!
・・・ですがしばしのご猶予を
美味なる最上のはちみつ酒と
麗しき四人の乙女が
この地で私を引き止めるのです」
王は静かに首を振る
「この使命半ばに倒れた剣を拾うは
その友たる汝がさだめ」
いつもの余裕はどこへやら
フローミルから笑みが消えた
「ご冗談を
私の友ダーファングの剣に敗北なし
私の杖をおいて他に並ぶものなし」
「アエルフェンドールの闇に
ダーファングはひざまずいた
汝の友の汚名を雪げ!」
フロガーの血を継ぐフローミル
友を想い心が逸る
馬を駆り立て二十日と三日
星なき夜へ辿り着く
アエルフェンドールの地を統べるは三人の闇の王
光蝕む闇が朝を拒み 終わらぬ夜をもたらす
光奪われし民が愛を忘れ冷たく哂う
杖の先に光を灯し
呪われし地の深奥を照らす
そこは漆黒の門
そこは漆黒のアエルフェンドール城
頭上から闇の王たちの嘲笑が降り注ぎ
背後から刃が振り下ろされる
まぎれもないダーファングの姿
「友よなぜだ!?
なぜ心を闇に染めた!?」
互いの顔も見えぬ闇夜の広間
血に濡れた友の剣にかつての光は無い
「俺を友と思うなら
俺の為に死んでくれ」
フローミルの杖とダーファングの剣
ぶつかり合う二人の強者
無二の友が今ぶつかり合う
背中の傷が痛む
友と戦わねばならぬ心が痛む
時もわからぬ闇夜の広間
一瞬とも永遠ともつかぬ戦いに決着はつかない
不意に小さな光がこぼれた
友の目からあふれた涙
そのわずかな光が彼の姿を照らし出す
友のものではない影を映し出す
真実を知るフローミル
友を信じ続けたフローミル
友の影に杖を振り下ろし叫ぶ
「生ある者 ダーファングよ
その心に真の光を!」
友の影から魔女現る
醜き闇が偽らせたのだ
「生ある者 フローミル
友の命惜しくば 大いなる光の力 闇に捧げよ!
アエルフェンドールのチャンピオンとなれ!」
卑劣な要求に迷いなき返答
「影の魔女よ
友を解き放て!
私の身を捧げる!」
魔女は下卑たる笑いを上げ
ダーファングは光を取り戻した
「生ある者 フローミル
身も心も闇のしもべとなり
影の魔女たる私を愛せ」
誇りも名誉も全て失い
死を選ぼうとするダーファングを引き止める
「友よ 生ある者よ
お前は二度と光を見失うな!」
ダーファングは城を後にし
フローミルは魔女の手に口付けした
「これより私は闇への忠誠を誓う
愛する影の魔女よ」
フローミルは深く被った頭巾で決して素顔を見せぬ魔女と
毎晩床を共にした
闇に染まった氷の杖は
大地を氷に閉ざし 長い冬をもたらした
月日は流れ
闇の地アエルフェンドールに変化が訪れた
アエルフェンドールは春を迎えていた
寝台で眠る影の魔女
その横顔を窓から照らす一筋の光
夜空を朝日が切り裂いた
魔女は飛び起きた
窓から見渡す限りの世界が朝を迎えていた
乾いた岩肌は輝く花々に覆われ
温かな風が甘い香りを運ぶ
魔女の素顔は暴かれていた
漆黒のアエルフェンドール城は騒然とし
混乱に満ち溢れる
「影の魔女よ、そなたの頭巾はどこに?」
「生ある者 フローミル
お前の仕業か」
怒り狂う魔女に笑いかけるフローミル
「愛する影の魔女よ
恥じることは無い
美しい素顔をもっと見せてくれ」
魔女の存在を隠し続けていた頭巾は
フローミルの手にあった
「愛する影の魔女よ
私は誓いを守りお前を愛す
そして愛するが故に私は頭巾を返さない」
アエルフェンドールの闇の呪いは
頭巾が作り出した魔女の心の影だった
「愛する影の魔女よ
私はフロガーの血を継ぐフローミル
大いなる光の魔法の使い手
輝く氷の杖がお前の心を溶かす」
「生ある者 フローミル
お前は見事に光と名誉を取り戻した」
影の魔女は最後にフローミルにそっと口付けすると
頭巾と共にいずこへと消え去った
アエルフェンドールは救われた
フロガーの血を継ぐフローミル
美味なる最上のはちみつ酒と
麗しき四人の乙女が待つ
エバースノーの地へ戻った
友であるダーファングと共に